台湾の空気と日本の心が交錯する漫画『緑の詩』を読み解く

こんにちは!羊羊(@yangyang_xiaoqi)です。

台北での滞在は、いつも私たち夫婦に新しい発見をもたらしてくれます。活気ある街並みや美味しい食べ物もそうですが、ふとした瞬間に、台湾と日本の間に流れる独特の、心地よい繋がりを感じることがよくあります。

街を歩けば、日本のコンビニやドラッグストアはもちろんのこと、日本の音楽が流れるカフェや、日本の古着を扱うお店を見つけることも珍しくありません。

まるで、日本文化がごく自然に、台湾の人々の日常に溶け込んでいるかのように感じるんです。

一体、なぜこれほどまでに日本の文化が台湾の日常に深く根付いているのでしょうか?今回は、その理由を探るヒントとなるような、とても素敵な漫画『緑の詩(みどりのうた)』をご紹介したいと思います。

この作品は、台湾の日常に息づく日本文化の風景を、実に繊細かつ詩的に描いているんです。

内容

「はっぴいえんど」の歌声が紡ぐ物語の始まり:共感と発見の旅路

『緑の詩』は、台湾の漫画家、高妍(ガオイェン)さんによって描かれた作品で、2022年にKADOKAWAから上下巻で刊行されました。

台湾と日本で同時に発売されたことでも注目を集めましたね。

私たちがこの作品を初めて読んだ時、その美しく、どこかノスタルジックな絵柄と、台湾の日常風景の描写にすぐに引き込まれました。高妍さん自身も、日本の漫画や音楽、文学から多大な影響を受けていると語っており、その愛情が作品の隅々から伝わってきます。

物語の主人公は、台北郊外の海辺の街で育った少女、緑(リュ)

彼女は日本の音楽や文学、映画に強く惹かれています。中でも、日本のロックバンド「はっぴいえんど」の「風をあつめて」という曲に、なぜか抗しがたい「懐かしさ」を感じます。

この「懐かしさ」が、彼女の、そして物語全体の出発点となります。

自分では経験していないはずの「懐かしさ」を覚える。この不思議な感覚は、私たち読者にも、台湾と日本の間に横たわる見えない絆を問いかけてくるかのようです。それは、私たちが台湾を訪れるたびに感じる、言葉では説明しきれない親近感とよく似ています。

大学進学を機に台北へと移り住んだ緑は、そこで日本のサブカルチャーを愛する青年と出会い、新しい世界を広げていきます。

作中には、村上春樹さんの小説や、細野晴臣さん岩井俊二さんといった日本のクリエイターたちの名前が自然に登場し、緑の部屋の本棚や、彼女が立ち寄るブックカフェには日本の書籍がずらりと並びます。

これらの描写は、現代の台湾の若者たちの生活に、いかに日本の文化が深く根付いているかを、まるでスナップ写真のように切り取って見せてくれます。

単なる流行としてではなく、生活の一部として日本文化が存在している様子が、丁寧に描かれているんです。特に、日本の音楽を巡る交流は、言葉の壁を越えた感情の共有の場となっており、音楽が持つ普遍的な力を感じさせてくれます。

複雑な歴史を超えて響き合う「心」の風景:文化が織りなす多層性

この漫画が描くのは、単なる「日本文化が好き」という表層的な部分だけではありません。

物語の背景には、台湾がかつて日本の統治下にあったという歴史が静かに流れています。もちろん、その時代には台湾の人々が経験した苦しい側面も存在しました。

しかし、この作品は、そうした歴史の重みを特定のイデオロギーに偏ることなく、あくまでも「文化の繋がり」という視点から見つめ直そうとします。

主人公の緑は、日本の統治時代を直接知らない、いわば「戦後世代」です。彼女にとっての日本は、歴史の教科書の中にある「過去」であると同時に、魅力的な文化を生み出す「現在」です。

『緑の詩』は、歴史的な距離感の中で、台湾の人々がどのように日本文化を受け入れ、自分たちの価値観の一部として消化しているのかを、緑の心の機微を通して描いています。たとえば、日本統治時代の面影が残る建物や地名、古い歌謡曲などが、現代の若者の日常に溶け込んでいる様子は、歴史が現在の文化に与える影響を静かに示唆しています。

過去を切り離すのではなく、現在の文脈の中で再評価し、受容していく台湾の人々のしなやかな感性が、作品全体から伝わってきます。

まるで、過去の歴史が持つ光と影の両方を包み込みながら、現在の台湾の人々の心の中に、日本文化が独自の形で息づいている様子を表現しているかのようです。それは、私たちが台湾を訪れるたびに感じる、言葉や国境を超えた温かい親近感や、どこか居心地の良さに通じるものがあるように思えます。

この漫画は、そんな複雑で、しかし豊かな感情の層を、読者にそっと提示してくれます。特定の答えを押し付けるのではなく、読者一人ひとりに、台湾と日本の関係性について思いを馳せるきっかけを与えてくれるでしょう。

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台湾の日々の様子は、ちょこっと移住日記にて発信しています!観光ではない、日常視点の台湾の様子を発信しています。ますます台湾が好きになった3ヶ月移住生活を夫婦の日記形式で紹介しています

あなたの台湾への旅を深める一冊:新しい視点を見つける読書体験

『緑の詩』は歴史の解説書ではありません。

むしろ、感性豊かな若者たちの日常や成長、そして恋愛が瑞々しく描かれた作品です。

高妍さんの描く絵は、台北の街並みや風景、そして登場人物たちの表情が本当に美しく、ページをめくるたびに、まるで台湾の風や空気を感じられるかのようです。特に、台北の古い街並みや路地裏、活気ある夜市の様子などが、緑の心情と重ね合わせて描かれているシーンは、私たち夫婦が台湾で目にしてきた風景そのもので、思わず引き込まれてしまいます。

作品に登場する場所を巡る「聖地巡礼」も楽しそうですね。

この作品を読むことは、単に物語を楽しむだけでなく、台湾という土地の多様な側面や、そこに暮らす人々の心の奥底にある感情に触れるような体験になるでしょう。日本と台湾の間に存在する、言葉だけでは語り尽くせない複雑で美しい関係性を、一人の少女の視点を通して感じることができます。

もしあなたが、台湾の文化や人々の心にもっと深く触れてみたいと願うなら、あるいは台湾と日本の間の、言葉では言い尽くせない不思議な繋がりを感じてみたいと思うなら、この『緑の詩』はまさにおすすめの一冊です。

きっと、新たな台湾の魅力と、心温まる物語に出会えるはずです。

ぜひこの機会に、高妍さんが描く、台湾の「懐かしい未来」を巡る旅に出てみませんか?

『緑の詩』を読んで、台湾と日本の間に流れる独特の絆に興味を持たれた方へ、もう少し深くその関係性を知ることができる書籍をいくつかご紹介します。

『台湾を知るための60章 第2版 (エリア・スタディーズ)』

台湾の歴史、政治、経済、社会、文化など、多岐にわたる側面を網羅的に解説した入門書です。日本統治時代についても客観的な視点で書かれており、台湾の現代社会がどのように形成されてきたかを理解する上で非常に役立ちます。専門的すぎず、一般の読者にも読みやすい構成です。

『台湾日式建築図集 (日本語版)』

台湾に残る日本統治時代の建築物を美しい写真とともに紹介する書籍です。単なる建物の解説に留まらず、当時の生活や文化、そしてそれが現代の台湾にどう息づいているかを感じることができます。『緑の詩』にも登場するような、どこか懐かしい風景の背景にある歴史を、視覚的に捉えることができるでしょう。台湾の街歩きがさらに楽しくなる一冊です。

『台湾のなかの日本記憶』

元台湾総統である李登輝氏の対日観や、台湾社会における日本文化の受容、そして現代の台湾人が日本をどう見ているかについて、多角的に考察した本です。学術的な視点も持ちつつ、台湾の人々の心情に寄り添った内容で、より複雑な日台関係を理解する手助けとなるでしょう。

これらの書籍は、『緑の詩』で感じた台湾と日本の文化的な繋がりを、さらに広い視点から深めるための良いきっかけとなるはずです。あなたの台湾への理解が、より一層深まることを願っています。

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