今回は台湾の台北市大安にある「国立台湾大学社会科学棟図書館」を紹介します。
この図書館は、一般的に図書館のデザインではNGとされている事をあえて取り入れている挑戦的な建築です。
その結果、ただ本を読むだけの場所ではなく、より心地よく、ついつい長居したくなる場所になっています。
その特徴と魅力を一級建築士視点で、内観と外観に分けて紹介しています!今回は内観(室内)編です。
この記事では一級建築士の羊羊(@yangyang_xiaoqi)が台湾で訪れた建物や街について、専門的な視点で何故そうなったのかをわかりやすく解説しています。
\外観(室外)編はこちら/
基本情報
建物名称 | 国立台湾大学社会科学棟図書館 / 辜振甫紀念圖書 |
設計者 | 伊東豊雄+宗邁建築師事務所+大涵建築師事務所 |
完成年 | 2013年 |
場所 | 10617台北市大安區羅斯福路四段1號 |
アクセス方法 | 科技大楼駅から徒歩10分、シェアバイクで5分程度 |
開館時間 | 月〜金曜日 8:20〜22:00 土曜日のみ9:00〜開館 |
休館日 | 日曜日 |
見学方法 | ・入口受付にて、身分証明書(パスポート)を提示 ・リュックはロッカーに預ける |
入場料 | 無料 |
HP | https://web.lib.ntu.edu.tw/koolib/about/intro.html |
場所とアクセス方法
図書館の場所は台北市にある台湾大学内にあります。
最寄りの駅は科技大楼駅ですが、徒歩だと駅から10分と少し離れているのでシェアバイクのYouBikeを使って移動するのがお勧めです。
\YouBikeの乗り方はこちらから/
また台湾大学はかなり大きなキャンパスのため、図書館以外も見学する場合は校内をかなり歩くことになります。校内にもYouBikeポートがあるので自転車のまま乗り入れ可能ですので、ぜひ使ってみてください。
設計者の伊東豊雄さんについて
伊東豊雄 / Toyo Ito
1941年京城市(現・ソウル市)生まれ。1971年 URBANBOT(後、株式会社伊東豊雄建築設計事務所)設立。1986年に日本建築学会賞作品賞(シルバーハット)、2010年に第22回高松宮殿下記念世界文化賞、2013年にプリツカー建築賞、2017年にUIAゴールドメダル
設計者は日本を代表する建築家 伊東豊雄さんです。
正式には 伊東豊雄+宗邁建築師事務所 となっています。
伊東豊雄さんは国内外に有名な建築物を設計しており、宮城県仙台市の「せんだいメディアテーク」や、台湾の台中の「台中オペラシティ」など、これまでの建築デザインの常識を越えるような有機的な建築物があります。2013年には建築界のノーベル賞と言われるプリツカー建築賞も受賞しています。
内部見学の手続き
台湾大学の関係者以外が見学するためには身分証明書が必要です。
旅行の場合はパスポート提示で入館可能でした。
パスポートは印刷やスクリーンショットでは入れないので注意です!必ず原本提示となります。
入口のエントランス受付があり、受付の方に見学したいことを伝えましよう。たくさんの人が見学で訪れる建物なので、受付の方も中国語ができなくても理解してくれます。
日本人観光客がよく訪れるのか日本語での説明書きも有り。
受付のパソコンにて氏名とパスポート番号を入力し、受付の方にパスポートを預けます。
受付入力が完了すると、入館用のQRコードがついたタグがもらえます。
帰りにタグを返却すると、パスポートが返却されます。
また図書館内部はカバンやリュックの持ち込みが禁止されているので、受付隣のロッカー(無料)に預けます。
写真等は許可なしで撮っても問題ありませんでした。(勉強している学生の邪魔にならない様に気をつけましょう。)
台湾だとiphoneのカメラ音がミュートにできるので、心理的に撮りやすかったです。
建物から木漏れ日が降り注ぐ図書館
それでは図書館内部に入ってみます。
入ってすぐ目につくのは、円でも楕円でもない変な形の円が集まった不思議な天井です。
その変な形の円が集まることで屋根となり、そして円と円の間から太陽の光が入ります。まるで樹の下から見上げた時の木漏れ日のような天井です。
この特徴的な天井は台湾ではよくみられる蓮の葉が集まったようなイメージから着想を得たといいます。実際台湾大学キャンパス内にも蓮の葉池があり、身近な自然からデザインの着想を持ってきているため、初めて訪れても親近感が湧きます。
自然な形だからこそ均等均質ではなく、「有機的」で「ランダム」なまるで人がデザインせずに、自然と出来上がったような空間となっています。
普通は柱は均等に配置するのが一般的ですが、ランダムに立っているのがわかります。
建物案内板を見ても図書館は写真のように、一見建物?と思える形をしていました。
天井を詳しく見てみる
天井を詳しく見てみます。
隙間から日差が入るのが特徴と書きましたが、図書館を設計するにあたり本当はNGなデザインです。
なぜなら本は太陽の光が当たると、日焼けでボロボロになってしまいます。そのため図書館はなるべく窓を小さくして、日差が入らない薄暗い空間が一般的です。
ですがこの図書館では、あえて天窓を設けています。ただし、日の光を拡散するポリカーボネートという半透明プラスチック板を使うことで、強い日差を柔らかく拡散させ、本へのダメージを最小限にしています。
また日差を拡散させることで日中は照明をつけなくても、ほんのり明るい空間となり、環境負荷の少ない建物になっています。
さらにほんのり明るい空間を演出するために、照明も直接照らすのではなく、天井上部に光を当ててバウンスした間接光となっています。
柱を詳しく見てみる
次に柱を見てみましょう。
柱にも天井からの光を柔らかくする工夫がありました。
触ってみるとザラザラとした仕上げとなっており、ザラザラさせることで光を拡散させています。
白色なのでツヤツヤとした仕上げだと反射して眩しく、本を読むのに集中できなくなってしまします。
そのため白色のマットでザラザラさせることが、この建物の魅力を引き出しています。
図書館なのにガラスボックス!またもやNGデザインを採用した理由は?
外壁を見てみます。
実はこの建物は外壁がありません。四方向外周が全てガラスで囲まれています。
これもまた図書館ではNGなデザインです。理由は先ほど書いた通り、本が日焼けするためです。
ではなぜまたNGなデザインとしたのでしょうか?
まずデザインの視点で考えると、この外周のガラス壁は天井とは対照的に有機的な形ではなく、無機質な四角形となっています。
この有機的な天井と無機質なガラス壁が対照的なデザインとなり、より天井が強調されています。
また無機質=存在を主張しないものであるため、伊東豊雄さんの頭の中では壁がない建築物にしたかったのだと思います。まさに樹の下の空間を体現した建物であることがわかります。
実際の設計では、日差が入らないように天井の方が壁より出っ張り、庇となり影を落とすことで本に太陽光が当たらないようにしています。
ただ庇が短いため、実際は太陽光が入るため、日中はロールカーテンが下されていました。
もっと庇が深かった方が台湾の気候にはあっていたのかもしれません。
せっかくガラスで外からも中の様子全体が見えるのに、日中はカーテンが下されているため閉鎖的な壁になってしまっています。
夫婦で台湾ちょこっと移住を発信中!
台湾の日々の様子は、ちょこっと移住日記にて発信しています!観光ではない、日常視点の台湾の様子を発信しています。
\1級建築士視点で台湾台北の良さを書いています/
\朝市で買い物から自炊までご飯をメインに書いています/
家具が建物の持ち味を引き出す。ぐるぐると吸い込まれる本棚
本棚も特徴的なデザインがあります。
一般的な図書館の本棚は分類がわかりやすく、まっすぐに並んでいますが、ここではカーブしています。
しかも本棚はただカーブしているのではなく、いくつかの波紋が互いに影響しながらぐるぐると渦巻くデザインとなっています。
ぐるぐる渦を巻いたレイアウトとすることで、一歩図書館に踏み入れるとシンプルなワンフロアの見渡しの良い空間なのに、まるで複雑な迷路に入った様な感覚になります。
カーブの奥へ奥へと導かれ、興味がないジャンルのコーナーもついつい散策していまいます。
外周のガラス壁と渦巻き状の本棚が、天井のデザインを惹き立たせ、そこまで大きくない図書館ですが入ってみると無限の広がりを感じました。
椅子もオリジナル。家具へのこだわり
最後に細かなデザインに目を向けてみます。
椅子のデザインも建物のデザインが反映され、背もたれに天井の隙間と同じように穴が空いています。
材料は台湾では昔から建材として使われている竹でできています。現代的なデザインですがどこか懐かしい家具になっています。
ちなみに竹の加工には費用がかかりますが、大学の工房を利用することで製作費用を抑えることができているそうです。地の利を活かした上手な設計です。
以上、台湾大学社会科学部棟図書館 内観 編 でした。
最後までご覧いただきありがとうとございました。
外観の特徴がそのまま内部まで連続する一貫したデザイン、そして家具のデザインが建物の魅力を引き出していることがわかり、伊東豊雄さんの建築の醍醐味である、常識を超えたデザインを堪能することができました。
ここを毎日利用できる学生さん羨ましい、、
外観編ではさらに、エコな仕組みや周辺環境との比較について解説しています。
\外観編も見てみる!/